『先生、ほかになんとか、手続きを進める方法はないのでしょうか…』
本来であれば、単に【不動産の名義変更】を行い、【預貯金の解約手続き】を行えばよいだけの相続手続きも、【相続関係や相続人・書類の状況】などによって、その前提としての様々な申立てが必要となり、必要な期間も費用もかさむ結果となってしまいます。
死亡によって相続が開始してからでは避けることができず、相続手続の複雑化が予見できる場合には事前の対策が不可欠です。
では、どのような場合に注意すればよいのかを、確認してみましょう。
Case① 夫婦の間に子どもがいない場合
子どもがいない夫婦の一方が死亡した場合、その配偶者が遺産の全てを相続するわけではありません。
【亡くなった方の父母・祖父母が健在であるときはこれらの者が、父母・祖父母も既に死亡しているときには、その兄弟姉妹が相続人となります。】
つまり、死亡したご主人の名義となっている自宅や、生活費の支出のために使用していたご主人名義の預貯金を名義変更するために、その奥さまがご主人の兄弟姉妹と、書類に押印をもらうために遣り取りをしなければならない状況が発生するのです。
また、【兄弟姉妹で既に亡くなった方がいる場合には、その子(=甥・姪)も相続人となるため(これを『代襲相続』といいます)】、その方との遣り取りまで必要となります。
場合によっては、今まで会ったことのない方から押印をもらわなければいけないこともあるため、遺された方には精神的に非常に負担となる手続きとなってしまいます。
Case② 前の配偶者との間に子どもがいる場合
問題となるのは子どもがいない場合だけではありません。
【配偶者が再婚であるときに、前の配偶者との間にお子様がいらっしゃる場合には、現在の配偶者のほか、そのお子様も当然に相続人となります。】
近年は離婚する組数が3組に1組ともいわれており、このような事例は非常に増えています。
以前から『前の結婚の際の子どもがいる』と聞かされていたとの状況は多いようですが、なかには、死亡後に戸籍を取り寄せてみて初めて『実は主人に先妻との間の子どもがいた』などと知ることもあるようです。
いずれにせよ、相続手続きの大変さを考えると、生前の対策が不可欠な事例のひとつと言えるでしょう。
Case③ 相続人の中に認知症や知的障害の方がいる場合
相続が開始すると、相続人の話し合いによる『遺産分割』が必要となります。
この【遺産分割の話し合い(=遺産分割協議)】には相続人の全員が参加しなければならず、認知症や知的障害であることを理由に参加しないことは認められません。
したがって、上記のような方のために、【家庭裁判所に代理人(=成年後見人)の選任の申立てをしなければなりません。】
この申立てが完了するには3ヶ月から6ヶ月を要することもあり、その分の費用も発生します。
また、死亡した方の兄弟姉妹が相続人となる場合に、認知症などの方がいるときには、その方のご家族などに成年後見人の申立てをお願いしなければならないことになります。
【自宅の名義変更】や【預貯金の解約】のために、そのような手続きをご親戚にお願いしなければならないことは、お聞きするご相談の中でも、遺された方の大きな負担となっています。