相続が発生した時、まず行わなければならないのが相続人調査です。
「相続人なんて、家族だけじゃないの?」
そう思われる方もいるかもしれません。しかし、相続関係は複雑で、思わぬところに相続人がいるケースも少なくありません。
遺産分割協議は相続人全員で行う必要があります。もし、協議後に新たな相続人が判明した場合、協議は無効となり、やり直す必要があります。
「うちの相続人はこれだけだ」と思い込まず、必ず相続人調査を行いましょう。
この記事では、相続人調査の必要性から、具体的な調査方法、専門家への依頼について解説します。
ぜひ、読み進めてみてください。
相続人調査はなぜ必要なのか?
相続が発生した際、まず取り掛かるべきは相続人の確定です。
「相続人なんて、家族だけじゃないの?」
そう思われる方もいるかもしれません。しかし、相続関係は複雑で、思わぬところに相続人がいるケースも少なくありません。
【ポイント】遺産分割協議は「相続人全員」で行う必要があります。
もし、遺産分割協議後に新たな相続人が判明した場合、協議は無効となり、やり直す必要があります。
「うちの相続人はこれだけだ」と思い込まず、必ず相続人調査を行いましょう。
実際、被相続人の前妻・前夫との間に子がいたことが判明するケースも少なくありません。その場合は当然、遺産分割協議のやり直しになります。
相続人調査をしないと起こるトラブル
相続人を確定しないまま相続手続きを進めると、後々様々なトラブルが発生する可能性があります。具体的にどのようなトラブルが起こりうるのか、以下に詳しく解説します。
①遺産分割協議の無効
繰り返しますが、遺産分割協議は、相続人全員の合意によって成立します。
もし、相続人調査を怠り、一部の相続人を除外した状態で遺産分割協議を行った場合、その協議は無効となります。
後日、除外されていた相続人が現れた場合、遺産分割協議をやり直す必要が生じ、時間や費用がかかるだけでなく、相続人間で感情的な対立が生じる可能性もあります。
②相続税申告の誤り
相続税は、相続財産の総額や相続人の数によって計算されます。
相続人を確定せずに相続税申告を行うと、相続人の数を誤って申告してしまう可能性があります。
これにより、相続税額が過少申告となったり、税務調査を受ける原因となったりする可能性があります。
③不動産登記の不備
不動産を相続した場合、法務局で相続登記を行う必要があります。相続登記には、相続人全員の同意が必要です。
相続人を確定せずに登記を行うと、後日、登記に不備が見つかり、登記をやり直す必要が生じる可能性があります。
④金融機関での手続きの遅延
金融機関(銀行、証券会社など)で相続手続きを行う際、相続人であることを証明するために、戸籍謄本などの書類提出を求められます。
相続人が確定していないと、金融機関での手続きがスムーズに進まず、預金や有価証券の払い戻しなどが遅延する可能性があります。
⑤相続争いの激化
相続人調査を怠ると、遺産分割協議の際に、相続人間で意見の対立が起こりやすくなります。特に、遺産分割の割合や方法について合意が得られない場合、相続争いが激化する可能性があります。
⑥相続人調査のやり直し
相続手続きを進める中で、相続人の漏れが発覚した場合、それまでに行った手続きを全てやり直す必要が生じます。これにより、時間や費用が余計にかかるだけでなく、精神的な負担も大きくなります。
相続手続きのなかで「相続人調査」は一番大変?その理由とは
相続が始まると、残された家族は様々な手続きに追われます。
葬儀後、ひと息つく間もなく、健康保険の返還、年金手続き、遺言書確認、そして相続人調査など、やらなければならないことが山積みです。
特に、今回のテーマである「相続人調査」が一番面倒な手続きであり、自分たちで行おうとすると挫折しやすいものだといわれています。
相続人調査が大変な理由は、主に以下の3つが挙げられます。
①戸籍の形式と記載方法の複雑さ
戸籍には様々な形式があり、それぞれ記載内容や方法が異なります。古い戸籍は手書きの毛筆体で書かれているため、判読が非常に困難です。
②古い戸籍の判読の難しさ
明治時代の戸籍などは、現代の戸籍とは形式が大きく異なり、専門家でなければ内容を理解するのは難しいでしょう。
③戸籍の種類と意味の理解
戸籍には、「現在戸籍」「除籍」「原戸籍」の3種類があり、それぞれ意味が異なります。これらの違いを理解し、適切に使い分ける必要があります。
④他にもある!戸籍を取得する大変さ
【今では存在しない地名がある】
市町村合併などで消滅した地名が出てくることがあり、その都度、古い戸籍を保管している
役所を探し出す必要があります。
【複雑な親族関係】
子のいない人の相続、再婚者の相続、養子縁組など、相続関係が複雑な場合は、戸籍の収集・解読作業がさらに困難になります。
相続人調査の基本手順
①戸籍謄本の取得
まずは被相続人の本籍地の市役所にて、戸籍謄本(または除籍謄本)を取得します。
被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本を取得する必要があります。
②戸籍の調査
取得した戸籍謄本の内容を確認し、相続人となるべき人物を洗い出します。
古い戸籍謄本は手書きで読みにくい場合や、記載内容が現代の戸籍と異なる場合があります。
③相続関係説明図の作成
調査結果をもとに、相続関係説明図を作成します。
相続人の氏名、続柄、住所、生年月日などを記載し、被相続人との関係性を明確にします。
これは必須書類ではありませんが、相続関係を明確にする上で役立ちます。
【相続人調査に必要な戸籍】
戸籍謄本 | 戸籍原本に記載されている内容の全てを写したものです。 |
除籍謄本 | 戸籍に記載されていた人が全員いなくなり、閉鎖された戸籍の写しです。 |
改製原戸籍 | 戸籍法の改正前に作られた古い様式の戸籍です。 |
【戸籍収集の注意点】
- 被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本が必要です。
- 子の現在の戸籍謄本を確認し、生存しているか、または死亡している場合はその子の出生から死亡までの戸籍謄本が必要です。
- 配偶者、直系尊属(父母、祖父母)、兄弟姉妹の戸籍謄本が必要です。
- 相続人の住所を確認するために必要です。
- 戸籍調査の過程で、知らない相続人が判明した場合は、まず戸籍の附票で住所を確認し、手紙などで連絡を取るのが望ましいでしょう。
相続人調査は自分でやる?それとも専門家?状況別判断のポイント
自分で相続手続きができる条件
以下の条件をすべて満たす場合は、ご自身で相続手続きを行っても問題が発生しにくいでしょう。
- 相続人が数人で、遺産分割について争う可能性が低い場合。
- 相続財産が少なく、相続人間で分配について揉める可能性が低い場合。
- 不動産の名義変更手続きは専門知識が必要となるため、含まれていない方が手続きは容易です。
- 相続手続きには時間と手間がかかりますが、それを許容できる場合。
専門家への依頼を検討すべきケース
以下のいずれかに当てはまる場合は、専門家(弁護士、司法書士、行政書士など)に相続人調査を依頼することをおすすめします。
【相続人が誰かわからない場合】
相続関係が複雑で、誰が相続人になるのか把握しきれない場合。
【連絡が取れない相続人がいる場合】
この場合、戸籍を辿って本籍地を調査する必要がありますが、これは個人で行うには困難です。また、連絡が取れない相続人がいる場合、後の相続争いも予測されます。
【被相続人が転籍を繰り返している場合】
被相続人が市区町村をまたぐ転籍を繰り返している場合、各市区町村から戸籍を取り寄せる必要があり、非常に手間がかかります。
【遠方から書類を取り寄せる必要がある場合】
被相続人の以前の本籍地が遠方の場合、郵送で書類を取り寄せる必要がありますが、慣れていないと手間がかかります。
【相続人が兄弟姉妹や甥姪である場合】
相続人が被相続人の兄弟姉妹や甥姪である場合、相続人調査で取り寄せるべき書類が多くなります。
相続人調査は誰に依頼するべき?専門家ごとに紹介
相続人調査の専門家には、弁護士、税理士、司法書士、行政書士がいます。それぞれ専門分野が異なるため、相談内容に合わせて適切な専門家を選ぶことが大切です。
弁護士:協議で揉めているときには頼りになる
弁護士は「法律のプロ」であり、相続に関するあらゆる法律問題を取り扱います。特に、遺産分割協議が難航している場合や、相続人同士で争いが起きている場合など、法的なトラブルが発生した際には、弁護士に相談するのがおすすめです。
【弁護士に依頼した方が良いケース】
- 相続人の代理人になってほしい場合
- 遺産分割協議が難航している場合
- 相続人同士で争いが起きている場合
- 遺留分侵害額請求をしたい場合
税理士:お金の不安を丸ごとおまかせ
税理士は「税金の専門家」であり、相続税の申告や節税対策など、相続税に関する相談に乗ってくれます。相続税の申告が必要な場合や、節税を考えている場合は、税理士に相談するのがおすすめです。
【税理士に依頼した方が良いケース】
- 相続税の申告が必要な場合
- 節税を考えた遺言書を作成したい場合
- 相続財産の評価について相談したい場合
司法書士:相続人調査のプロフェッショナル
司法書士は、不動産登記や相続放棄の手続きなど、法務局や裁判所に提出する書類作成の専門家です。不動産の名義変更が必要な場合や、相続放棄を検討している場合は、司法書士に相談するのがおすすめです。
【司法書士に依頼した方が良いケース】
- 不動産の名義変更が必要な場合
- 相続放棄を検討している場合
- 遺言書の検認を申し立てたい場合
行政書士:「あとは書類作成だけ」のときに頼りになる
行政書士は、遺言書作成や遺産分割協議書作成など、相続に関する書類作成を代行します。相続手続きがスムーズに進んでおり、書類作成の代行やアドバイスだけで十分な場合は、行政書士に依頼するのも良いでしょう。
【行政書士に依頼した方が良いケース】
- 遺言書を作成したい場合
- 遺産分割協議書を作成したい場合
- 金融機関での相続手続きを代行してほしい場合
まとめ:専門家への相談で安心の相続手続きを
相続は、人生における大きな転換期です。専門家のサポートを得ることで、複雑な手続きをスムーズに進め、新たな人生のスタートを切るための時間を確保することができます。
司法書士や税理士といった専門家への相談は、決して無駄にはなりません。まずは、お気軽にご相談ください。