所有権移転登記は、不動産の所有者が変わったことを、正式に記録する手続きです。私たち人間が戸籍で管理されているように、不動産も登記簿というもので管理されています。
この登記簿に、誰がその不動産の本当の持ち主なのかを書き換えるのが、所有権移転登記です。
【所有権移転登記が必要となる主なケース】
不動産の売買 | 不動産を売却したり、購入したりする場合には、必ず所有権移転登記が必要です。売主と買主が共同で手続きを行うのが一般的ですが、司法書士に依頼することで、手続きをスムーズに進めることができます。登記を行わないと、二重売買などのトラブルに繋がる可能性があります。 |
贈与 | 生前贈与で不動産を贈与したり、贈与を受けたりする場合にも、所有権移転登記が必要です。贈与登記を行わないと、相続の際に手続きが複雑になったり、トラブルの原因となる可能性があります。 |
離婚時の財産分与 | 夫婦が離婚する際、これまで築き上げてきた財産を公平に分けることを「財産分与」といいます。財産の中には、不動産も含まれることが多く、この場合、誰の所有にするかを決め、所有権移転登記の手続きを行う必要があります。 |
相続 | 2024年4月1日から、相続登記が義務化されました。期限内に手続きを行わないと、過料が課される可能性があります。 |
さてこのとき、「所有権移転登記は自分でできるのか?」という疑問があることでしょう。
事実をいえば、所有権移転登記を自分で行うことは可能です。
ただし、専門知識や書類作成の技術が求められるため、自分で行う場合は、やや大変です。
たいていの人は、弁護士や司法書士などのプロに依頼して、手間と時間をかけない楽な選択をとっています。
この記事では、所有権移転登記を自分で行う場合の具体的な流れや、「そもそも自分でやるべきか、専門家に任せるべきか」を判断する基準について解説します。
所有権移転登記を自分で行う5つのステップ
不動産の売買や相続など、不動産の所有者が変わるときには、所有権移転登記の手続きが必要になります。この手続きは、自分で行うことも可能です。
①登記事項証明書の取得
まず、登記簿謄本と呼ばれる、不動産の登記内容が記載された書類を取得します。これは、不動産の現況を把握するために必要です。
取得方法: 法務局窓口、オンライン、郵送
②必要書類の準備
登記申請に必要な書類を揃えます。具体的には、次のようになります。
- 【登記申請書】法務局で入手、またはオンラインでダウンロード
- 【本人確認書類】運転免許証など
- 【印鑑証明書】実印を押印したもの
- 【固定資産評価証明書】市区町村で発行
- 【登記識別情報通知書】以前の所有者が持っている場合 などが必要になります。
③管轄の法務局へ申請
準備した書類を持って、不動産の所在地を管轄する法務局へ出向き、登記申請を行います。「登記ねっと」を利用して、オンラインで申請することも可能です。
④法務局による審査
提出された書類が法的に問題ないか、法務局が審査します。審査期間は、通常、1~2週間程度かかります。
⑤登記完了
審査に問題なければ、登記が完了し、「登記完了証」と「登記識別情報通知書」を受け取ります。
- 【登記完了証】登記が完了したことを証明する書類
- 【登記識別情報通知書】新しい所有者であることを証明する書類
所有権移転登記の必要書類まとめ
所有権移転登記の手続きには、以下の必要書類があります。もし自分で所有権移転登記を行う場合は、チェックリストとしてお使いください。
もし、自分で手続きを行うのが難しい場合は、司法書士に依頼することをおすすめします。 司法書士は、専門知識をもとに、正確かつスピーディーに手続きを進めてくれます。
【共通して必要な書類】
- 登記申請書
- 本人確認書類
- 印鑑証明書
- 登記識別情報または権利証
- 固定資産評価証明書
- 住民票
- 委任状
①売買の場合
登記申請書 | 法務局で入手 |
本人確認書類 | 運転免許証など |
印鑑証明書 | 実印を押印したもの |
登記識別情報または権利証 | 不動産の権利を示す書類 |
固定資産評価証明書 | 市区町村で発行 |
住民票 | 本人および配偶者のもの |
委任状 | 司法書士に手続きを委託する場合 |
売買契約書 | 売買の事実を証明する書類 |
【ポイント】
売買契約書が必須です。不動産業者を通じて手続きを進める場合は、事前に必要な書類について指示を受けることができます。
②贈与の場合
登記申請書 | 法務局で入手 |
本人確認書類 | 運転免許証など |
印鑑証明書 | 実印を押印したもの |
登記識別情報または権利証 | 不動産の権利を示す書類 |
固定資産評価証明書 | 市区町村で発行 |
住民票 | 本人および配偶者のもの |
委任状 | 司法書士に手続きを委託する場合 |
贈与契約書 | 贈与の事実を証明する書類 |
【ポイント】
贈与契約書の作成が重要です。口約束では認められない場合があるため、必ず書面で残しましょう。
③相続の場合
登記申請書 | 法務局で入手 |
相続人全員の本人確認書類 | 運転免許証など |
印鑑証明書 | 実印を押印したもの |
故人と相続人それぞれの戸籍謄本 | 相続関係を証明 |
遺産分割協議書または遺言書 | 相続の経緯を証明 |
登記識別情報または権利証 | 不動産の権利を示す書類 |
固定資産評価証明書 | 市区町村で発行 |
住民票 | 相続人全員のもの |
委任状 | 司法書士に手続きを委託する場合 |
【ポイント】
相続人は複数いる場合が多く、手続きが複雑になる可能性があります。相続関係を証明する書類が多数必要です。
所有権移転登記にかかる「登録免許税」
不動産の所有権が移転したり、抵当権が設定されたりする際に、国に支払う税金のことを「登録免許税」といいます。この税金は、不動産に関する登記手続きを行う際に必ず必要になります。
登録免許税は、登記申請を行う際に、法務局に納付します。
登録免許税の計算方法
登録免許税の金額は、不動産の評価額に税率を掛け合わせることで計算されます。
- 【評価額】
固定資産税評価額が一般的に使用されます。これは、市区町村が定める不動産の評価額です。 - 【税率】
登記の種類によって税率が異なります。
所有権移転登記の税率
所有権移転登記の税率は、登記の原因によって異なります。
税率 | |
不動産の売買、贈与、財産分与 | 2.0% |
不動産の相続 | 0.4% |
登録免許税の計算例
【売買の場合】
固定資産税評価額が5000万円の不動産を売買した場合、登録免許税は5000万円×2.0%=100万円となります。
【相続の場合】
同一の不動産を相続した場合、登録免許税は5000万円×0.4%=200万円となります。
【結論】手間をかけても費用を抑えたいなら所有権移転登記を自分でやってみよう
所有権移転登記は、不動産の所有権を移転させるための重要な手続きです。この手続きは、司法書士に依頼することも、自分で行うことも可能です。
自分で手続きするメリット | 専門家への報酬が不要になるため、費用を抑えられます。 |
自分で手続きするデメリット | 必要書類の準備や、法務局への手続きなど、時間がかかります。登記申請書の作成など、専門的な知識が必要です。間違いがあると、手続きが遅れたり、やり直しになったりする可能性があります。 |
自分でやるか、プロに任せるか。
判断基準はシンプルです。すなわち「手間をかけてでも、費用を浮かせたい」という明確な意志があるかどうかです。
- 【時間に余裕がある】平日に法務局などに行く時間がある方。
- 【書類作成が得意】法律用語や書類作成に抵抗がない方。
- 【費用を極力抑えたい】時間をかけてもいいから自分で完結したい
- 【不動産が1つだけ、かつシンプル】例えば、居住用の持ち家を配偶者に贈与するなど、比較的簡単なケース。
上記に当てはまる方は、自分で行うという選択肢にメリットを感じることもあるでしょう。
しかし正直、それ以外に自分で所有権移転登記を行うメリットはほとんどありません。
専門知識や経験のない一般人が所有権移転登記を行う場合、プライベートな時間を多く費やして専門書類をつくり、法務局に提出しなければなりません。
とくに致命的なのは、法務局が土日祝日に開所していないという点です。平日に仕事をしている人にとって、非常に都合が悪いです。
とはいえ、いまの時点で自分で行うべきか、プロに任せるべきか、迷っている方もいることでしょう。
そこで以下に、所有権移転登記を自分で行う場合の流れについて解説します。実際に自分が手続きを行えるかどうか、イメージしてみてくださいね。
所有権移転登記をプロにまかせたほうがいい場合
以上みてきた、所有権移転登記を自分で行うケースにおいて、「自分でやるのは大変かもしれない」と思った方もいらっしゃることでしょう。
そんなときは弁護士や司法書士といった相続のプロに依頼するのが最善です。
手間をはぶき、時間を節約するための費用として考えると、十分にメリットがあります。
司法書士に依頼するメリット
専門知識に基づいた正確な手続き | 登記に関する豊富な知識と経験を持つ司法書士に依頼することで、正確かつ迅速な手続きが期待できます。 |
時間と手間を削減 | 登記に必要な書類の準備や手続きを全て司法書士に任せられるため、時間と手間を大幅に削減できます。 |
トラブル防止 | 登記ミスによるトラブルを未然に防ぐことができます。 |
安心感 | 専門家である司法書士に依頼することで、手続きに関する不安を解消し、安心して手続きを進めることができます。 |
司法書士に依頼することをおすすめするケース
不動産の権利関係が複雑な場合 | 抵当権の設定、共有持分、または複数の権利者がいる場合など、不動産の権利関係が複雑な場合は、専門家のサポートが必要となります。 |
過去の登記記録に不明な点がある場合 | 何世代も前から登記手続きが行われておらず、登記記録が不明確な場合は、司法書士が過去の記録を調査し、適切な手続きを行います。 |
複数の不動産を同時に売買する場合 | 複数の不動産を同時に売買する場合は、手続きが複雑になりがちです。司法書士に依頼することで、効率的に手続きを進めることができます。 |
相続による不動産の移転の場合 | 相続の手続きは複雑で、専門的な知識が必要です。特に、相続人が複数いる場合や、遺言がある場合は、司法書士に依頼することをおすすめします。 |
まとめ:所有権移転登記は、専門家に任せるのが安心かつ確実な方法です。
所有権移転登記は、不動産の所有者を正式に記録する重要な手続きです。自分で行うことも可能ですが、専門知識が必要なうえ、時間や手間がかかります。
特に、相続や複雑な権利関係を伴う場合などは、間違いなく手続きを進めるために、司法書士などの専門家に依頼することがおすすめです。