身近な人が亡くなったときはお通夜や葬儀の手続きだけでも大変なのに、その後の日常生活の中で相続手続きを進めるのは手間でやりたくないと考えてしまう人もいるかもしれません。
ただし、必要な相続手続きを行わないまま放置することは、大きなリスクを抱えることになります。
いくつかの相続手続きには法的に期限が定められているものも多く、本来自分が得られるべき財産が手に入らなかったり、早めに着手しておけば大したことがなかった手続きが複雑化して難航するリスクがあるため注意が必要です。
この記事では、相続手続きをしないとどうなる?という疑問を持つ相続人の方に向けて、相続手続きをしないでいることのリスクや、最低限行う必要のある相続手続き、期限のある相続手続きのリストをご紹介します。
相続手続きをしないとどうなる?起こりうるリスク
相続手続きをしないまま放置し続けることで、将来的に起こりうるリスク・デメリットについて解説します。
被相続人に負債があった場合は返済の義務を負う
被相続人の借金は相続財産の一部として引き継がれ、負債を相続する場合は法定相続分に応じて各相続人が負担することになります。
預貯金や現金などのプラスの財産で借金を返済できれば問題ありませんが、借金の額がそれを大幅に上回る場合には、相続放棄や限定承認を検討する必要があります。
相続放棄を選択すると、その相続人は最初から相続人ではなかったとみなされます。一方、限定承認はプラスの財産の範囲内で借金を返済する方法です。
ただし、どちらの手続きも家庭裁判所に申述しなければなりません。そして、その期限は相続開始を知った日から3カ月以内です。この期限を過ぎると、相続放棄も限定承認も認められなくなります。そのため、相続財産の全体像を早急に調査することが重要です。
相続税の延滞税や加算税の発生
相続税が発生した場合、相続開始を知った日の翌日から10カ月以内に申告と納税を行わなければなりません。
10カ月という期間は一見長く感じるかもしれませんが、その間に遺産分割協議や財産調査、相続税評価額の計算を完了させる必要があります。自分で行う場合、相続税申告書の作成まで行う必要があり、慣れていない方には非常に難しい作業となるでしょう。
申告・納税の期限に間に合わない場合、相続税の本税に加えて延滞税や無申告加算税が課せられます。また、財産評価を誤ると過少申告加算税が追加される可能性もあります。
納税を遅らせると財産を差し押さえられるリスクもあるため、相続が発生したら速やかに対応することが重要です。
預貯金の払戻しの請求権の消滅
被相続人の預貯金については、解約や名義変更の手続きが必要です。5年間取引がない場合は預金の払い戻し請求権が消滅し、預金債権の時効が成立します。このため、請求権が消滅すると、預貯金を解約したり引き出したりすることができなくなるので注意が必要です。
さらに、相続手続きを行わないまま10年が経過すると、「休眠預金等活用法」に基づき、休眠口座の残高が預金保険機構に移管されます。その後、この資金は民間の公益活動に活用されます。高額な残高がある場合は、早めに相続手続きを完了させることが大切です。
二次相続の発生による相続登記の複雑化
相続登記は法改正により2024年4月から義務化されました。この義務化によって相続で取得した不動産は、3年以内に相続登記の手続きを行う必要があります。
ただし、相続登記がこれまで義務の対象でなかった影響で、数世代にわたって相続登記が放置される事例が多く見られます。このような場合、世代交代が進むと権利関係者の数が増え、相続登記が事実上困難になることがあります。
相続登記が放置された不動産は管理が行き届かず、家を囲む塀の倒壊などによる被害が発生した場合、損害賠償を請求されるリスクがあります。また、倒壊の危険がある場合は行政代執行による解体のリスクもあります。
さらに、相続登記が行われていない不動産では、権利関係者全員が持分に応じた解体費用を請求される可能性もあるため、早めに相続登記を完了させることが重要です。
遺留分侵害請求ができなくなる
確実に相続できる遺産の割合を「遺留分」といい、これは兄弟姉妹以外の法定相続人に認められています。
もし遺留分が侵害された場合、その相手に対して返還請求ができますが、請求期限は相続開始と遺留分の侵害を知った日から1年以内です。また、侵害を知らなかった場合でも、相続開始から10年が経過すると時効となります。
遺留分侵害請求権を行使しても、実際に支払請求を行わなければ5年で金銭債権の請求権が消滅します。そのため、具体的な請求額を計算しておく必要があります。
遺留分は、被相続人の子供の場合は法定相続分の1/2、親の場合は1/3と決められており、具体的な侵害額を計算するには遺産総額を正確に把握することが重要です。
相続回復請求権を失う
他の相続人や第三者によって相続権が侵害された場合、相続回復請求権を行使して、侵害された財産を取り戻すことが可能です。ただし、この請求権は相続権の侵害から5年で時効となります。また、侵害を知らなかった場合でも、20年が経過すると請求権は時効となります。
さらに、譲渡された相続分を取り戻したい場合には、相続分の取戻権を行使することができます。ただし、この場合は譲受人に対して1カ月以内に取り戻しの請求をしなければなりません。期間が過ぎると、権利は消滅し、対立関係にある譲受人も共同相続人として認めることになり、一族の財産が流出する可能性が高まります。
リスクを回避するために必要な相続手続き
上記で解説したような「相続手続きをせずに放置することで起こるリスク」は、普段の生活に影響が及び、後になって自分の財産や時間にデメリットが生じるおそれがあります。
そんなリスクを避けるためには、最低でも主に以下のような相続手続きを行う必要があります。
- 遺言書の調査と検認(遺言書がある場合)
- 相続人の調査
- 相続財産の調査
- 遺産分割協議(遺言書がない場合)
- 相続税の申告
- 相続登記
遺言書の調査と検認(遺言書がある場合)
遺言書の有無を確認することは、相続手続きの最初の段階で重要な手続きです。
遺言書が見つかった場合、公正証書遺言であれば公証役場での確認が必要です。一方、自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合は、家庭裁判所での検認が必要です。
この手続きを怠ると、遺言の内容が法的に有効でないと判断される可能性があります。検認は遺言の存在を公式に確認し、内容を確定させるためのものであり、これを行わないと遺産分割が適切に進まないリスクがあります。
相続人の調査
相続手続きの初期段階として、法定相続人を確定するために相続人の調査が必要です。
戸籍謄本を取り寄せることで、被相続人の婚姻歴や子供の有無など、相続人の範囲を正確に把握します。この調査を怠ると、相続人全員の同意が得られないまま手続きが進み、後に把握していなかった相続人から異議を申し立てられるリスクがあります。
特に異母兄弟や隠し子など、予期しない相続人が存在する場合が考えられるため、争いを回避するためには早めの調査が重要となります。
相続財産の調査
相続財産の調査は、相続手続きの中でも重要度の高い手続きです。
被相続人の所有する不動産、預貯金、有価証券、保険、借金などをリストアップし、その評価額を確認します。
これにより、相続税の計算や遺産分割の基礎資料を整えることができます。この調査を怠ると、後に隠れた財産や負債が発覚し、相続人間のトラブルや法的問題が生じるリスクがあるため、正確な財産目録を作成することが重要です。
遺産分割協議(遺言書がない場合)
遺言書がない場合、相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産の分け方を決定します。
この協議には全ての相続人の同意が必要であり、全ての相続人の合意を得られた場合は遺産分割協議書を作成します。
協議がまとまらない場合、家庭裁判所に対して遺産分調停や遺産分審判を申立てることとなります。遺産分割協議を放置すると、相続人の間で争いが長期化し、財産の管理や処分ができない状態が続くリスクがあります。
また、遺産分割協議がまとまらないまま放置している間に相続人の一人が死亡すると、代襲相続によって相続人の関係性が複雑化するリスクにも注意が必要です。
相続税の申告
相続税の申告は、被相続人が亡くなってから10ヶ月以内に行う必要があります。
相続税が発生する場合、適切に申告して納付をしないと延滞税や加算税が課されるリスクがあります。また、申告を怠ると税務署からの追徴課税が発生する可能性があります。
遺産の評価額を正確に算出し、必要な書類を準備して税務署に提出します。相続税の控除や特例を適用するための手続きも含まれるため、専門家の助言を受けることが望ましいです。
相続登記
相続登記は、不動産の名義を被相続人から相続人に変更する手続きです。
先述のとおり、相続登記は法改正により2024年の4月に義務化され、不動産の取得を知った日から3年以内に相続登記を行わなければ罰則の対象となります。
相続登記の手続きを行わなければ、不動産の売却や担保ができず、相続人の間でトラブルが発生する可能性があるため注意が必要です。
相続登記には、遺産分割協議書や相続人の印鑑証明書などが必要になります。相続登記を放置すると、不動産の権利関係が不明確になり、将来的な取引に支障をきたすリスクがあります。適切な書類を揃え、速やかに手続きを進めることが重要です。
期限のある相続手続き
相続手続を進めていく上で、状況に応じて様々な手続を行う必要が生じます。
ただし、数ある相続手続の中には期限が決められているものも多いため注意しなければなりません。
期限が決められている主な相続手続とその期限について、最後に表で簡単にご紹介します。
相続手続きごとに定められている期限も異なるため、これらの期限に注意しながら場面に応じて必要な手続きを進めていくことが求められます。
自分で相続手続きを行う場合は特に期限に対して細心の注意が必要になるでしょう。
期限のある相続手続 | 手続を行える期限 |
---|---|
相続放棄・限定承認の申立 | 3ヶ月以内 |
被相続人の準確定申告 | 4ヶ月以内 |
相続税の申告・納税 | 10ヶ月以内 |
遺留分侵害請求 | 1年以内 |
葬儀代・埋葬料の受給手続 | 2年以内 |
死亡保険金の請求 | 3年以内 |
相続登記 | 3年以内 |
相続回復請求権 | 5年以内 |
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