身近な人が亡くなった時点から、いくつもの相続手続きを始める必要があります。
ただし、相続手続きにはいくつもの種類があり、期限が定められているものも少なくありません。
もし期限が切れてしまうと、得られるはずの財産を得られなかったり面倒ごとが増えたりと、自分に不利益な相続になってしまうリスクがあるので注意が必要です。
この記事では、相続手続きの期限について、各種手続きの概要を踏まえながら解説します。
期限がある相続手続きについて
相続手続きの流れの中で、期限がある手続きには以下のようなものが挙げられます。
被相続人名義で契約していた金融機関に連絡し、預貯金口座の凍結などの措置を取る必要があります。
【3ヶ月以内】相続放棄・限定承認
被相続人に多額の負債があったときに行われることが多い相続放棄や限定承認の手続きは、相続発生時から3ヶ月以内が期限になります。
相続放棄は、相続人が被相続人の全ての遺産の相続を放棄する選択です。これを行うと、不動産や預金などの資産だけでなく、借金や未払いの税金などの負債も一切引き継がないことになります。
相続放棄は、相続開始を知った日の翌日から3ヵ月以内に家庭裁判所に申立てを行う必要があります。
相続放棄が認められれば、その人は最初から相続人ではなかったとみなされますが、相続税の控除額や非課税限度額の計算では法定相続人として数えられます。
限定承認は、相続人がプラスの財産の範囲内でのみ負債を引き継ぐ方法です。これも相続放棄と同じく、相続開始を知った日の翌日から3ヵ月以内に家庭裁判所に申立てる必要があります。
【4ヶ月以内】所得税の準確定申告
準確定申告とは、相続人が故人に代わって、故人の死亡した年の所得税の確定申告を行う手続きです。
確定申告が必要な人が亡くなった場合、本人が対応できないため、その責任は相続人に移ります。
ただし、故人に確定申告が不要だった場合は、準確定申告も必要ありません。この申告は、相続開始を知ってから次の日から4カ月以内に税務署に行う必要があります。
以下のような状況で準確定申告が必要とされます。
- 故人が自営業だった場合
- 故人が2箇所以上から給与を受け取っていた場合
- 故人の年間給与が2000万円以上だった場合
- 故人が年間400万円以上の年金を受け取っていた場合
- 故人が確定申告により還付金を受け取ることが可能だった場合
【10ヶ月以内】相続税の申告と納付
相続人が被相続人の財産を継承し、その価値が一定の額を超える場合、相続が開始された翌日から10カ月以内に相続税の申告と納税が求められます。
この期限を守らないと、延滞税の課税や税金の軽減措置が利用できなくなるなど、不利益が生じる可能性があります。
相続税は通常、換金可能な財産に課されますが、墓地や仏壇、仏具などには、例外的に相続税が課されないことがあります。
【1年以内】遺留分侵害額請求
遺留分侵害額請求権を行使する際には、期限に注意する必要があります。
「相続が開始されたこと」と「遺留分が侵害されている事実」を知った日から1年以内に請求を行わないと、その権利は失われてしまいます。
例えば、ある人が「父親の死」や「不公平な遺言書が存在する」ことを知った時点から、その1年間が権利行使の期限となります。
【3年以内】不動産の名義変更
2021年4月に、「所有者不明土地問題」対策のための法律が制定され、その結果2024年4月1日から相続登記が義務付けられることとなりました。
この相続登記には、3年の猶予期間が設けられています。
もし相続人が不動産の相続を知ってから3年以内に正当な理由なく相続登記を行わなかった場合、過料が科されることがあるので、その点には特に注意が必要です。
【3年以内】生命保険金・死亡保険金の請求
多くの保険会社では、保険金の請求期限を3年と定めています(かんぽ生命の場合は5年)。
これは、保険法に基づき、保険金請求の時効が被保険者の死亡等の支払事由から3年間とされているためです。
しかし、特定の事情によっては期限が過ぎた後でも請求が可能な場合があるため、不明な点があれば保険会社に問い合わせて確認することをおすすめします。
【5年10ヶ月以内】相続税の還付
もし相続税を過剰に支払ってしまった場合、税務署に申告することで過払い分の還付を受けることが可能です。還付が考えられるのは、以下のような状況です。
- 不動産の評価を間違えて行った場合
- 特別な控除や特例を計算に含めずに相続税を算出した場合
- 自ら相続税の計算をしてしまい、誤りがあった場合
- 税務に詳しくない税理士に依頼し、計算上のミスがあった場合
相続税の還付請求には期限があり、相続税の納税期限から5年間です。
つまり「相続の開始を知った翌日から5年10カ月以内」が還付請求の期限となります。
相続において期限が定められていない手続き
遺言書の検認
遺言書の検認に特定の期限は設けられていませんが、検認を行わずにいると、不動産の相続登記や預貯金の払い戻しが行えなくなることがあります。
通常、検認手続きには約1ヵ月の時間を要します。
遺産分割協議・調停・審判
遺産分割協議、調停、審判には明確な期限が設けられていませんが、これらが解決せずにいると相続手続きを開始できず、結果として不動産や預金などの資産を有効に活用することができません。
さらに、相続税の計算における各種控除の適用が受けられないため、相続税額が高くなるリスクもあります。そのため、遺産分割は早期に進めることが望ましいです。
銀行口座などの名義変更
預金口座の名義変更や解約払い戻しには法律で定められた期限は設けられていませんが、5年以上手つかずにしておくと時効が適用されるリスクがあります。
また、10年が経過すると預金は「休眠預金」とみなされ、公益活動への資金として使われることもあります。
時効や休眠預金となっても引き出しが可能な場合は多いですが、混乱を避けるためにも、できるだけ早くこれらの手続きを行うことが理想です。
相続手続きの期限が過ぎた場合のデメリット・リスク
相続税の軽減や控除が利用できなくなる
相続開始を知った翌日から10ヶ月以内に相続税を申告・納付しないと、以下のような税金軽減措置を利用できなくなることがあります。
- 小規模宅地などに関する特例
- 配偶者への税額軽減措置
- 農地などに関する納税猶予の特例
- 非上場株式等の贈与税に関する納税猶予や免除の特例
- 相続税の物納制度
遺産分割協議が相続税の申告・納付期限までに完了しなかった場合、小規模宅地の特例や配偶者の税額軽減は適用されません。
申告・納付期限後に遺産分割が完了すれば、税額を修正し特例を適用することは可能です。
ただし、相続税の申告・納付期限までには、軽減措置を適用しない税額での支払いが必要になります。
相続税の延滞税がかかる
相続税の納付期限までに支払いが完了しない場合は、納付期限の翌日から完全に支払いが終了する日まで、延滞税を支払う必要があります。
この延滞税の利率は、納付期限の翌日から数えて2ヶ月が経過すると変更されます。また、利率は年度によっても変動するため注意が必要です。
相続人の状況が変わる
相続手続きの途中で相続人の状況が変わることがあります。
例えば、相続手続き中に相続人が認知症になると、その相続人のために代理人を設置する必要が出てきます。
また、相続人が亡くなると、新たな相続が発生し、相続人が増加するため、関与する人々の数が多くなります。これらの状況は、相続手続きをさらに複雑化させる要因となります。
相続手続きは専門家に相談するのがおすすめ
必要な相続手続きを期限内に終わらせるためには、それぞれの手続きに必要な書類を把握して作成し、然るべきところに提出もしくは送付する必要があります。
書類によっては、作成に専門的な知識が必要になり、作成した書類の内容に誤りがあることで期限に間に合わないリスクも十分考えられます。
もし記事でお悩みが解決しないようでしたら、札幌大通遺言相続センターの無料相談をご利用いただけますと幸いです。
ラインでの受付も実施しておりますので、お気軽にご相談ください。
まとめ
相続手続きで期限がある手続き
- 【3ヶ月以内】相続放棄・限定承認
- 【4ヶ月以内】所得税の準確定申告
- 【10ヶ月以内】相続税の申告と納付
- 【1年以内】遺留分侵害額請求
- 【3年以内】不動産の名義変更
- 【3年以内】生命保険金・死亡保険金の請求
- 【5年10ヶ月以内】相続税の還付
相続において期限が定められていない手続き
- 遺言書の検認
- 遺産分割協議・調停・審判
- 銀行口座などの名義変更
相続手続きの期限が過ぎた場合のデメリット・リスク
- 相続税の軽減や控除が利用できなくなる
- 相続税の延滞税がかかる
- 相続人の状況が変わる