「相続財産隠し」とは、相続の対象となるはずの被相続人の財産を、一部の相続人が他の相続人に分からないように隠し、相続の対象から除外して独占することをいいます。
相続財産隠しは決して倫理的に良い行いではないですが、実は罪に問われることはほとんどありません。
しかし、相続財産隠しの疑いがある相続人から遺産を隠している事実を明らかにし、正当な遺産分割を行う手段はいくつかあります。
この記事では、相続財産隠しをするとどのようなリスクがあるのか、相続財産隠しが明らかになるケースや、相続財産隠しをしていないか調べる方法をご紹介します。
相続財産隠しは罪になるのか
結論から言うと、相続財産隠し自体が刑罰の対象になることはほとんどあり得ません。
刑法第244条1項では、配偶者、直系血族、同居の親族との間で窃盗・横領の罪を犯しても、刑を免除すると決められています。
相続人が被相続人の財産を勝手に自分のものとして扱っても犯罪にはならないのです。
相続財産隠しの疑いや事実があっても警察に被害を届けることは難しいでしょう。
しかし、罪にならない一方で、相続財産隠しをすると以下のリスクが考えられます。
追徴課税・重加算税
相続財産を隠しても、いずれ税務署の調査により明らかになるケースがあります。
税務署からの調査・指摘を受けると、隠していた相続人本人だけでなく、他の相続人も追徴課税を負わなければならない可能性が出てきます。
また、意図的な相続財産隠しは重加算税の対象となり、通常の相続税より35%多い追徴課税を納めなければなりません。
相続財産隠しが悪質である場合、刑事罰に問われる可能性も十分あり得ます。
相続欠格になる
相続財産隠しの中でも、遺言書に手を加えるような悪質な手段を取った場合に限っては相続欠格になります。
具体的には、被相続人の遺言書の破棄・変造・偽装・隠匿を図った場合です。
これらの行為をした場合は、何の手続きもなく相続権を失います。
相続財産隠しが発覚するケース
特定の相続人が相続財産隠しをしている場合、その事実が発覚するかもしれないケースについてご紹介します。
遺産分割前に預金が引出された
遺言に基づいた相続、もしくは遺産分割協議が行われる前に被相続人の銀行口座から多額の出金があり、相続財産隠しが発覚するケースがあります。
被相続人が亡くなる前後、凍結される前の銀行口座から預金が引き出されていたり、被相続人が入院している時期に出金の記録がある場合は、相続財産隠しが強く疑われます。
そして、他の相続人による金融機関への問い合わせにより発覚します。
そのような場合、相続人は銀行に紹介して残高証明書や取引明細を取得することができます。
もし銀行名や支店名が分からない場合は、周辺の金融機関に問い合わせる方法を取ることも可能です。
税務署による調査
税務署は、正当な額の相続税が納められているかを入念にチェックします。
預貯金の流れ、不動産や株式の保有状況、生命保険の保険金の動きなど、被相続人の財産に関わる情報を収集します。
それらの情報と相続人の申告内容に相違がないか確かめることで、相続財産隠しが発覚するのです。
また、相続財産隠しが強く疑われる相続人に関しては、税務署に情報提供することで税務調査が入るというケースもあります。
相続財産隠しをしていないか調べる7つの方法
実際に、特定の相続人が相続財産隠しをしていないか調べる主な方法を7つご紹介します。
①直接問いただす
相続財産隠しが疑われている本人に、事実を問いただすという方法を取ることもできます。
現実的には、問いただすだけで相手が事実を認める可能性にはあまり期待できないでしょう。
ただし、遺産隠しをするリスクも伝えながら説得すれば、相手が認める可能性も考えられるので、最初は相手と話してみる方法をとってもいいかもしれません。
②預貯金の動きを調べる
被相続人名義の銀行口座を調べ、取引履歴を取得することで生前や死亡直後の預貯金の動きを知ることができます。
戸籍謄本などを持参し相続人であることを証明できれば、金融機関で残高証明書や取引明細を取得することが可能です。
また、銀行口座の預貯金だけだなく、貸金庫があればそちらの契約状況を確認する必要もあるでしょう。
③株式の状況を調べる
被相続人が株式や投資信託などの有価証券を保有していた場合は、証券会社に問い合わせをして、資産状況を開示してもらう方法があります。
証券会社でも同様に、相続人であることを証明できれば可能です。
照会をすることで、その証券会社での過去の保有資産を知ることができ、相続財産隠しが行われた形跡が見つかる可能性があります。
④不動産の状況を確認する
被相続人が保有していた不動産は、不動産の所在する市区町村役場で「名寄せ帳」を取得して把握することができます。
名寄せ帳とは固定資産の課税台帳を指します。
名寄せ帳の開示により、その市区町村内で被相続人が保有する、すべての不動産の情報を得ることが可能です。
名寄せ帳に記載された情報と、現在の所有不動産との違いから相続財産隠しの形跡を発見できる可能性があります。
⑤不当な生前贈与がなかったか調べる
被相続人から生前贈与を受けていた場合、当時の被相続人に判断能力がなければ、生前贈与の無効を主張することができます。
生前贈与には被相続人の合意が必要であるため、判断能力が法的に求められるのです。
当時の被相続人が認知帳で判断能力がないことが明らかな場合は、相続財産隠しと判断することができるでしょう。
その場合は、診断書や福祉施設の書類をもとに、訴訟の手続きを行うことで不当な生前贈与を無効にできる可能性があります。
⑥相続税申告書を確認する
特定の相続人が相続財産隠しをしている場合、隠している財産も含めて相続税を申告している可能性があります。
疑いのある相続人に相続税申告書の開示を求めることで、相続財産隠しをしていないか調べることができます。
相続税の申告が異様に多い場合、相続財産隠しについて問いただす判断材料になるでしょう。
⑦遺産確認訴訟を行う
相続財産隠しの疑いが強い相続人が、隠している遺産を相続対象に入れない場合、「遺産確認訴訟」を起こすことが可能です。
遺産確認訴訟は、主に相続人の間で遺産の範囲に争いがある場合や、相続財産の対象になるか定かでない財産がある場合に行われる手続きです。
ただし、被相続人の死後に相続財産を使い込んでしまった場合は、遺産相続において存在しない遺産になってしまう点には注意が必要です。
もし遺産の使い込みが発覚して、それが悪意のあるものであった場合は不当利得返還請求や損害賠償請求で対処することができます。
相続財産隠しが発覚した場合の対処法
特定の相続人による相続財産隠しが発覚した場合に、取ることができる対処法は以下のものが挙げられます。
遺産分割協議を再度行う
相続財産隠しが発覚した場合、すべての相続人の合意を得ることで、遺産分割協議を再度行うことができます。
一度成立した協議を無効として、すべての相続財産を対象に遺産分割協議を再度行います。
または、遺産分割の手続きが終わった後に相続財産隠しが見つかった場合、いままでの手続きは有効なものとして扱い、新たな相続財産について遺産分割協議を行うことも可能です。
ただし、相続人のうち1人でも合意しない限り遺産分割協議をやり直すことができない点には注意する必要があります。
相続財産隠しをしている相続人に事実を認めさせ、分割協議のやり直しに合意するよう説得しなければならないのです。
不当利得返還請求を行う
一部の相続人が、被相続人の生前や死後、勝手に遺産を使い込んでしまった場合の対処法として、不当利得返還請求を行うことができます。
相続の場面における不当利得返還請求とは、一部の相続人が無断で遺産を使い込むなどして利得を得て、それに対して損害を被った人が返還を求めることを言います。
遺産分割の成立前に相続財産隠しに気づいた場合、相手が独占している財産から法定相続分を超える金額が不当利得であると主張することができます。
まとめ
今回は、特定の相続人が相続財産隠しをしている場合に取ることができる行動について解説しました。
ほとんどの場合、相続財産隠し自体は罪に問うことができません。
ただし、裁判を通して不当利得返還請求を行うなど、状況に応じてしかるべき対応をすることで泣き寝入りを防ぐことができます。
今回ご紹介した内容を参考に、どの種類の相続財産がどれほど隠されているのか、どの対処法を取ることができるのかを整理しておくことが大事と言えるでしょう。
もし記事でお悩みが解決しないようでしたら、札幌大通遺言相続センターの無料相談をご利用いただけますと幸いです。
ラインでの受付も実施しておりますので、お気軽にご相談ください。